(2019年1号)
2018年は、HR関連のレギュレーション更新が近年で最も多かった年の一つとなりました。特に、#MeTooムーブメント(2017年後半~)に連動した「Time’s Up」という動きによってセクハラへの関心や問題意識が更に高まり、それに呼応するかの様に、ニューヨークでは州と市が同時にセクハラ研修実施を義務化し、カリフォルニアではセクハラ研修の対象者や時間などを変更する等、様々なアップデートがありました。また、雇用差別の禁止、賃金差別の禁止や最低賃金の上昇、従業員の保護、就労ビザの取得難易度の上昇などに関しても様々なレギュレーションのアップデートがありました。
これらのアップデートには、ある程度の方向性が定まっている様にも見受けられ、それらを考察すると共に、海外企業として今後もアメリカで発展して行くための考え方をまとめてみました。
レギュレーションの方向性
以前のNews Letter にも記載しましたが、近年はBan the Box (採用時の犯罪履歴の差別を禁止)や、Salary History Ban(採用時に前職での賃金情報の入手を禁止)を導入する州が増えてきました。
また、従来のSick Leaveに加え、休暇目的が性犯罪被害の対応や子供の世話などまで及ぶSafe & Sick Timeを導入し始める州(ニューヨークやニュージャージーなど)が出て来ており、労働に対する平等性や安全確保というテーマが全国的に浸透している様に思います。
賃金の方向性
最低賃金は、以前のニュースレター(2019年に向けた給与動向と間違えたくない昇給の考え方)に記載した通り、全国的に時給$15を目指した賃金上昇が始まっており、2017年はニュージャージー州のバーゲン群 (州全体は2021年が目標)、2018年末はニューヨーク市 (従業員11人以上の企業、10人以下の会社は2019年末が目標)、2019年にはCA州のサンフランシスコ市とサンノゼ市が、時給$15を実現させる流れとなっています。他の主要都市では、ワシントンD.C.が2020年、イリノイ州のシカゴ市が2022年、マサチューセッツ州が2023年での到達を目指している状況です。
また、2016年末に何かと世間を振り回したFLSA Threshold (一部エグゼンプトの最低年収を$23,660から$47,476上昇させる件)は一旦お蔵入りしたものの、その後CA州やNY市などが州独自で一部エグゼンプトの最低年収を定めただけでなく、今年に入って動きが再開し、議会には$35,308という金額でProposalが出されている様です。(2020年から開始の見込み)
更に入手困難になった就労ビザ → グローバル人材育成へ
皆さんも耳にされている通り、就労ビザの入手が年々困難になっている様です。この状況が在米日系企業に与える影響は大きく、ニューヨークでは老舗の寿司レストランが職人の確保ができず、閉店に追い込まれてしまったというニュースもありました。ビザが出ないという事は一般企業にも大きなリスクをもたらすもので、ローカルナショナルスタッフの採用や組織の体制に関して見直す必要があり、今後は現地化に向けて一層加速して行くのではないでしょうか。
企業の現地化が進むにあたって極めて重要なのが、それらの従業員を管理するマネージャー/マネジメント層です。これは在米日系企業だけでなくアメリカでも重要視されており、「Diversity & Inclusion」というキーワードで取り組まれています。また、国際的な企業(Multinational Enterprise: MNE)として活躍するためには、グローバルに関する一般的な定義やMNEの種類・形態を正しく知る必要がある事や、マネジメントとして日本から派遣される人材が渡米前後に行うべき準備を徹底する事がポイントとなります。(SHRMによると、42%がFailureとされている?!)
さらに、長期的に必要となって来るのが、海外派遣された人材が現地で得た経験や知識を日本本社に還元する事だと考えられます。そのためには、海外の派遣先で得たものを整理するだけでなく、今後どの様に活かして行けるのかという部分を考える機会を設ける事が成功の秘訣となりそうです。
2019年も約1/4が経過し、日本では「平成最後の・・・」という言い回しが流行っている様ですが、皆さまが「令和」でも引き続き発展して行ける企業を目指すべく、まずはアメリカでの赴任期間中にできる事を再度整理し、目標を明確にして、それらに取り組まれてみてはいかがでしょうか。
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