今回は、皆さんの誤解・誤認を防ぎ、適切な対処をしていただくための情報発信になります!
既に耳にされている方もいらっしゃるかと思いますが、イリノイ州では、2025年1月からPay Range Disclosureと呼ばれる、「給与レンジ開示法」が開始となります。
1. この法律が求めている事
この法律が求める事を簡潔にまとめると、次の様になります。
● 採用の募集をかける際に、対象ポジションの給与レンジを明示しなくてはならない
● つまり、そのポジションに就く人の最低および最高の給与額を提示する必要がある
● 対象となるのは、従業員15名以上が在籍する雇用主
2. 最低限の対応だけでは上手くいかない
そのため、次の様に考える方が多いかもしれませんが、それは単に罰則を回避するための最低限の対象であり、採用やリテンションを失敗してしまう行為に成り得ます!
- 募集時には「とりあえず適当な給与レンジ」を設ける
- これまで通り「内部事情優先の給与設定」にする
- そもそも、「ウチは従業員が15人いないので関係無い」
この様な対処や考え方だと、なぜ失敗してしまうのかと言いますと・・・一旦求職者の目線から考えると、分かりやすいかもしれません。
求職者は、「給与と得られる経験」を軸に仕事を探しています。
そうなると、採用プロセスの中で次の様な選択をすると考えられます。
① 募集要項を見る ➡ 応募
- より高い給与を得られる可能性がある企業がどこなのか
- その企業に入るとどの様な職務経験が積めるのか
② 面接を受ける ➡ 決定
- 入社直後にいくらからスタートするのか
- どうしたら給与が上がるのか
- どれ位の期間働くと給与がMAXに到達するのか
- 給与がMAXに到達したらどうなるのか
こういった背景を考えると、適当な給与レンジを提示した場合は応募者が集まらない事や、面接時に質問に適切に答えられなかった場合は選ばれないといった事態が考えられます。
更には、募集時に給与レンジが分かるのが当たり前になる事で、既存の従業員の意識も変わって来る事が考えられ、そうなると、応募者と同様の疑問が出る事になります。
- どうしたら給与が上がるのか
- どれ位の期間働くと給与がMAXに到達するのか
- 給与がMAXに到達したらどうなるのか
3. 2025年1月までにしておく事
そのため、この法律に対しては次の準備が必要となります。
- 市場の基本給相場の把握:Job Analysis (職務分析)を実施し、対象ポジションの役割や責任をある程度明確に定義し、それを基に基本給のベンチマークを行ない、市場相場をより正確に把握する。
- 給与レンジの定義:ベンチマーキングによって入手したデータを基に、ポジションごとの給与レンジを設定する。その際は、外的要因(市場相場)だけでなく、内的要因(組織内の人件費予算や現職従業員との兼ね合い)を加味する事がポイント。
- 昇給スキームの設計:「どのようにしたら、どの程度昇給するのか」といった、昇給のメカニズムや条件を明らかにする。評価結果との関連性を持たせる事がポイント。
- キャリアスキームの明確化:「このポジションで最高給与に到達したら、次はどうなるの?」といった疑問や不安などを発生させないために、最高給与に達した後のキャリアの展望を示す、つまり各ポジションのキャリアパスや昇進/昇格、配置転換の際に必要なスキルや経験などの要件を明らかにする。(Job Architectureなどが重要)
雇用主によって、「何をどこまで準備すべきか」という部分は変わってくるかと思いますが、いずれにせよ、準備には時間と費用がかかります。
例えば、給与透明化法はニューヨーク市でいち早く取り入れ、2022年の春に開始予定だったのですが、結局2022年の秋に延期された経緯があります。
これは恐らく、法令発表から開始までの期間では、各企業の準備期間が不足しているからという判断なのかもしれませんが、全国初の法案のため、あのCitigroupなどの大手企業でも対応に躓いてしまっていましたね。
長くなってしまいましたが、この内容をご覧になった皆さんには、今後「採用やリテンションが上手く行かなくなる」という事が無い様に、しっかりと準備していただくべく、今の内に、対応のための時間や予算の確保をしていただけたらと思います。
また、給与に関して更に詳しい情報を求められている方は、過去のニュースレターをご参照ください。
色々とご準備が大変な部分もおありかと思いますが、皆さんの組織があるべき方向に進み続けるために、是非、頑張っていただける様でしたら幸いです!