2027年の昇給を検討する時期になりました。
毎年この時期になると、給与水準や翌年の昇給見通しについて、 さまざまなアンケート結果が公表されます。 市場の大まかな動向を把握するうえでは便利な資料です。
しかし、 そのアンケートの数字は、本当に自社が人材を 採用・維持している市場を表しているのでしょうか?
数字そのものが間違っているのではありません。 問題は、数字が何を示し、自社の判断にどこまで使えるのかを 確認しないまま、昇給率や給与設定に当てはめてしまうことです。
01 給与アンケートは、どの人材マーケットの数字なのか?
給与アンケートは、一定の条件で集められた企業の回答を 集計したものです。回答企業の傾向をつかむには有用でも、 個々の企業が実際に競争する人材市場をそのまま表すとは限りません。
例えば在米日系企業でも、日本語能力や日系企業での勤務経験を 重視する職務と、米国企業も含めた広い市場から採用する職務では、 比較すべき人材市場が異なります。
日本語能力や日系企業経験などが重視され、 主にその人材ネットワークの中で採用・定着を競う職務
地域・業界・専門スキルなどを基準に、 米国企業を含む幅広い企業と競争する職務
前者では在米日系ビジネスの人材市場に近い給与データが 参考になり、後者では地域・業界・専門スキルに応じた 米国の一般市場を重視する必要があります。 職務によって両方の市場を比較する場合もあります。
ところが、手元のアンケートに「どの企業が回答したか」が 書かれていても、「その企業がどの人材市場で採用しているか」 までは区別されていないことがあります。
02 回答数が多ければ、信用できるのか?
例えば全体で1,000社が回答した調査でも、 地域・業種・企業規模・職種で絞り込めば、 自社に近い回答はごく少数かもしれません。 小さな集計では、一部の回答が平均値を大きく動かすこともあります。
また、同じ「Sales Manager」という肩書きでも、 担当市場、売上責任、部下の人数、必要な専門性は 企業によって異なります。 まして採用競争の相手が異なれば、 同じ肩書きでも参照する給与水準は変わり得ます。
十分に比較条件を確認できないアンケートは、 個別企業の給与決定に直接当てはめず、 市場の大まかな傾向を知るための資料として扱うのが適切です。
03 データを入手することと、給与を決めることは違う
仮に自社の人材市場に合うデータを入手できたとしても、 それが直ちに適正給与や適正昇給率になるわけではありません。 外部市場の動向と、会社の内部事情を合わせて判断する必要があります。
- 競争する人材市場の給与水準
- 採用競争・労働需給
- 地域・業界・職務ごとの動向
- 物価・経済環境の変化
- 会社の支払能力・人件費予算
- 職務価値と社内給与の整合性
- 従業員の業績・貢献度
- 人材育成・リテンション方針
その土台となるのが、会社として市場のどの位置を目指すのかという Compensation Philosophy(報酬方針)です。
市場水準を大きく下回る従業員への調整と、 優れた成果に報いる昇給とでは、目的も根拠も異なります。 調査結果をそのまま日本本社に送るだけでは、 自社にとって何が妥当なのかを説明したことにはなりません。
04 持ち帰りたい、給与データの3つの確認ポイント
給与アンケートを手にしたら、 まず次の3点を確認してみてください。
回答企業の属性、地域、業種、対象市場、サンプル数を確認。 自社が採用・定着を競う市場との重なりを見る。
Job Titleだけでなく、責任範囲、必要な経験・スキル、 職務の規模を確認。 比較可能な回答数やばらつきにも注意。
昇給予算の動向を示すSalary Budget Surveyと、 職務別給与水準を示すSalary Surveyを区別し、 自社の方針・予算と照合。
日本本社へデータを報告する際も、数字に加えて 「対象市場との適合性」 「その数字でわかること・わからないこと」 「追加で検討すること」 を添えるだけで、説明の質が変わります。
05 給与だけで、待遇の競争力を測れるか?
適切な市場給与を把握できても、 それだけで従業員が受け取る待遇全体を評価できるわけではありません。 医療保険、401(k)、有給休暇、リモートワーク、 キャリア開発なども採用・定着に影響します。
基本給が同じでも、医療保険料の本人負担や 柔軟な働き方が異なれば、従業員にとっての魅力は違います。 こうした福利厚生についても、 自社が実際に競争する人材市場との比較が重要です。
次回のBenefits Universeでは、医療保険に焦点を当て、 会社が負担する費用と従業員が実感する価値の違いを考えます。
社員に納得を。
本社には根拠を。
~2027年、昇給の判断と説明に必要なデータ~
2027年の昇給予算は何%が妥当なのか。 医療保険などのコスト増をどう考えるのか。 従業員と日本本社の双方に、 どのような根拠で説明するのか。
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