最近「Pay Disclosure Requirement」という新たなHRレギュレーションができ、全国的に波及して行く事が予想されているのですが、皆さまご存知でしたでしょうか。
こちらは、雇用主が「募集・昇格・配置転換などの情報に、最低/最高賃金の明示/記載が義務化される」というものでして、簡潔に表現すると、各ポジションの給与レンジを決めておく必要があるというものになりますが、ニューヨーク(NY市、Westchester群など)、ニュージャージー(Jersey City)を始め、ロードアイランド州、ワシントン州などで採用されており、カリフォルニアでも2023年1月1日から開始となります。
こちらは、「最低限、給与レンジを設定すれば法律を遵守できる」という単純なものでは無く、「対象ポジションのポテンシャルを示す」行為になる他、既存の従業員にも影響を及ぼす事が予想されます。
対応を誤ってしまう事によって、採用が更に難しくなってしまうだけでなく、リテンションやモチベーション維持も困難になってしまうため、今回は「どの様な対応をすれば成功するのか」といった部分を考察しています。
よくある間違った対応
こちらのHRレギュレーションは、ニューヨーク市の場合では、当初2022年5月の開始予定が延期されていた所、結局11月開始となりましたが、先延ばしになった一つの要因として「準備が大変で時間がかかる」という点も含まれるそうです。短時間で小手先の対応をしようとした場合、
- 給与レンジの設定を感覚で行う
- 既存のポジションの分のみの給与レンジを設定する
- 基本給の部分しか考えていない
といった形で、成功が見込めないものとなってしまう恐れがあります。
なぜかと言いますと、まず募集時に関しては「競合他社も給与の上限を明示した募集をしている」ため、適当に決めた上限が他社のものよりも大幅に低かった場合に、求職者が自社に応募してくれなくなるからです。また、給与の上限を明示しているという事は、
- どうしたら給与の上限に到達できるのか
- 上限に達するまでどの程度の期間を見込めば良いのか
- 上限に達した場合どうなるのか
といった質問をされる事が見込まれ、それに回答できない場合はやはり候補者はそこをしっかりと説明してくれる他社を選択するのではないでしょうか。
そして、募集の際に「給与の上限が明示される」という事が働く側にとって一般的になると、今度は既存の従業員も同様の事が気になり始める可能性が大いにあります。「新入社員の人の給与レンジはあるけど、自分たちのレンジは無いのか」と考えるのは当然であり、自身の給与や待遇に関して説明を求められる事が予想されます。
それに答えられなかった場合にどうなってしまうのかと言いますと、世の中の新規募集には給与レンジが載っているため、従業員は当然社外に目を向けてしまう事となり、より良い待遇があった際にはそちらに移って行く事も考えられます。
ではどの様に対応する事が望ましいのでしょうか。
給与レンジの設定
まず挙げられるのは「給与レンジを明らかにする」事でして、これは新規採用をするポジションだけでなく、既存ポジションも含まれます。給与レンジを明らかにする際は「内部要因」、つまり会社のお財布事情も大事ですが、それだけでなく「外部要因」、つまり競合他社がどの程度の給与レンジを設けているのかという事も大いに重要となります。
競合他社がどの様に給与レンジを決めているのかといいますと、アメリカで定番となっている「給与調査」という手法があり、「ビジネスの産業・エリア・職務内容」を基に給与相場を調査するものになります。競合他社と同様の手法で情報を集める事によって、どの程度の金額が妥当なのか、あるいは優位に立てるのかといった事が予測できる様になるという事です。
また、自社の給与レンジを設定するだけでなく、上限に到達するまでの昇給シミュレーションをする事によって、「どうしたら給与の上限に到達できるのか、上限に達するまでどの程度の期間を見込めば良いのか」といった部分が明らかになる他、対象ポジションの上位職や昇格ルート、つまりキャリアパスを明らかにする事によって「上限に達した場合どうなるのか」という質問に対して回答できる様になります。
従業員の待遇で重要な基本給以外の要素
従業員の待遇において、アメリカではTotal Reward、つまり総報酬という概念があり、「基本給」を始め、「変動給」であるボーナスやインセンティブ、健康保険や401(k)などの「ベネフィット」、フレックスタイムやリモートワークなどの「働き方」など多数の要素が含まれます。
働き方に関しては、直近の傾向としてリモートワークが組み込まれた働き方がデフォルトとなっており、職場に行くのは週3日以内、あるいはフルリモートとする所も増えている傾向があります。
もちろん、新規採用においてはまずは基本給が競合他社と同水準である事が必須で、そこを前提に他の待遇面が考慮されるという形であるため、例えば「ウチは基本給は低いけれども、健康保険が手厚い」という状況が有利になるケースは非常に限定的だと考えられます。(例えば、健康保険が重要な年代の人で、何かしらの理由で給与を重視していない場合など)
しかし、その健康保険に関しても毎年保険料が上昇する中でのプラン選定が難しく、プラン内容を維持するには保険料が上がってしまう事も多い中で、従業員の拠出額を増やすのか、保険料の上昇を抑えるためにプラン内容を少しだけ下げるのかなど、各社様々な対応が検討されています。
その中で、やはり健康保険の市場動向を把握する事は重要で、競合他社と比べて内容が悪くなってしまう状況は防がなくてはなりません。
雇用主が今すぐ行うべき事
その様な中で、雇用主の皆さまが行うべきアクションとしましては次の対応が挙げられます。
給与:給与レンジの制定、昇給シミュレーション、給与テーブルの制定
ベネフィット:健康保険の動向の把握、保険以外の福利厚生の見直し
その他:キャリアパスの制定・見直し
これらの対応をする際に参考にできる情報として、弊社が毎年発行している給与・健康保険・雇用状況のデータをまとめたCompensation Reportが挙げられ、他にもCompensation (給与)の専門家による基本給ベンチマーキング(給与調査)も行っております。
Salary Transparency Lawに対してしっかりとした準備を行い、採用難やリテンション問題を回避する事によって、皆さまの組織のミッション遂行やビジネスを前進させる事に繋がるため、もし社内に専門家がいらっしゃらない場合は、社外のリソースを活用して間違いの無い対応をしていただけたらと願っております。
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